命日に供えた白い胡蝶蘭が、仏壇のそばで早くしおれてしまうわけ

仏壇のそばに置かれた白い胡蝶蘭とお供えの果物

命日に供えた白い胡蝶蘭が、思っていたより早くしおれてしまった。
園芸教室で、ときどきそんなご相談をいただきます。
鎌倉の自宅で園芸教室を開いている白石香澄です。
実は仏壇のまわりは、胡蝶蘭にとって少し過ごしにくい場所なのです。
果物と冷えから少し離してあげるだけで、花もちはずいぶん変わります。
この記事では、その理由と、お供えの胡蝶蘭を長く咲かせるお世話、花が終わったあとのことまでお話しします。

命日のお供えに胡蝶蘭が選ばれる理由

命日の花に胡蝶蘭を選ぶ方は、年々増えているように感じます。
見た目の清らかさだけでなく、受け取るご家族の暮らしにやさしい花だからです。

花が長く咲き、ご家族の手をわずらわせない

切り花のお供えは、こまめな水替えや、傷んだ花の入れ替えが欠かせません。
悲しみの中にいるご家族にとって、その手間は思いのほか負担になります。

鉢植えの胡蝶蘭なら、環境が合えばひと月以上咲き続けてくれます。
水やりも、植え込みの水苔が乾いてからで足ります。
「お花の世話まで気が回らなくて」というご家族に、そっと寄り添える花です。

香りが控えめで、花粉も散らない

お供えに向く大輪の白い胡蝶蘭は、香りがごく控えめです。
お線香の香りとぶつからず、閉めきった仏間でも気になりません。

もうひとつ、蘭の仲間は花粉が粉ではなく、小さな塊になっています。
ユリのように花粉が落ちて、仏壇や白い布を汚す心配がありません。
長く仏壇の前に置いておく花として、これはありがたい性質です。

贈る日や添え書きのマナーは専門店のコラムを頼りに

命日に花を贈るときは、贈る日や予算、立札の書き方など、気になることがいくつもあります。
一周忌とそれ以降で花の色をどう選ぶかも、迷いやすいところです。

そうしたマナーは、フラワースミス・ギフトさんの命日に贈る花選びのコラムにわかりやすくまとまっています。
仏壇に供えやすいミディ胡蝶蘭や、法要を兼ねた命日向けの大輪の胡蝶蘭など、場面ごとの選び方も載っています。
贈る前に一度目を通しておくと、安心して手配できますよ。

仏壇のそばが、胡蝶蘭にとって過酷な理由

せっかくの胡蝶蘭が早くしおれてしまうとき、原因は花そのものより、置かれた場所にあることがほとんどです。
仏壇のまわりには、胡蝶蘭の苦手なものが意外と集まっています。

お供えの果物が出す「エチレン」

いちばん見落とされやすいのが、一緒に供えた果物です。
りんごやバナナなどの果物は、熟していく過程でエチレンというガスを出します。

福岡県農業総合試験場の研究では、胡蝶蘭はごく微量のエチレンで花がしおれ、葉が黄色くなることが確かめられています。
同じ報告では、主な切り花もエチレンを多く出すため、洋ランの鉢物とは一緒に運ばないよう勧めています。

仏壇の前では、胡蝶蘭と果物、それに仏花の切り花がぴったり並ぶことがよくあります。
胡蝶蘭は果物から少し離した場所に置き、果物は熟れきる前におさげしていただきましょう。

どのくらい離せば安心という決まった数字は、私の知る限りありません。
わが家では、果物と胡蝶蘭を同じ段に並べず、別の台に分けて置くようにしています。
果物の甘い香りが強くなってきたら、それがおさげの合図です。

仏間や和室の冷え込み

仏壇は、北側の和室や、ふだん人がいない部屋に置かれていることが多いものです。
暖房をつけない部屋は、秋の終わりから春先にかけて、夜にぐっと冷え込みます。

先ほどの福岡県の報告では、胡蝶蘭を15℃未満の場所に1日置いただけで、つぼみがしおれはじめたとされています。
冬の命日のお供えは、とくに冷えに気をつけたいところです。

一度、仏間に小さな温度計を置いてみてください。
昼間はあたたかく感じても、明け方には驚くほど下がっていることがあります。

わが家では、昼間は仏壇の前に置き、夜はあたたかいリビングへ移しています。
毎日動かすのが難しければ、ふだんはリビングに飾り、命日やお参りの日だけ仏壇の前へ運ぶのでもかまいません。
故人を想う気持ちは、置き場所が少し離れていても変わらないはずです。

光が足りず、ろうそくの火が近い

胡蝶蘭は、レースのカーテン越しくらいのやわらかな光を好みます。
仏壇の前は薄暗いことが多く、ここに何週間も置くと株が弱っていきます。

また、ろうそくのすぐそばに花がかかると、熱で花びらが傷みます。
燃え移ればもちろん危険ですから、火のそばには置かないようにしてください。

花が咲いているあいだのお世話

置き場所が決まったら、あとはいくつかの約束ごとを守るだけです。
どれも難しいことではありません。

届いたらラッピングを外して鉢の中をのぞく

贈答用の胡蝶蘭は、きれいな化粧鉢の中に、小さな鉢がいくつか寄せて入れてあります。
ラッピングをつけたままだと中が蒸れて、根が傷む原因になります。
届いたら包装を外し、鉢の表面を覆っている水苔の様子を見てあげてください。
立札はどなたからいただいたかが分かるよう、仏壇の脇に立てかけておくとよいですね。

毎朝のお水と、胡蝶蘭の水やりは別もの

仏壇には毎朝お水をお供えする方が多いと思います。
その習慣のまま、胡蝶蘭にも毎日お水をあげてしまう方が、実はとても多いのです。

胡蝶蘭は、水苔が乾いてからたっぷり与えるのが基本です。
季節にもよりますが、おおむね1週間から10日に1回ほどで足ります。
乾いたかどうかは、水苔の表面を指で軽く押してみると分かります。
ふかふかと乾いていて、鉢を持ち上げたときに軽ければ、水やりの合図です。

与えるときは、化粧鉢の上から注ぐのではなく、中の小さな鉢を一つずつ取り出します。
台所などで鉢底から水が流れ出るまでたっぷり与え、よく水を切ってから戻してください。
化粧鉢の底に水がたまったままになると、根腐れの原因になります。

しおれた花は早めに摘み取る

咲き進むと、下のほうの花から順にしおれていきます。
しおれた花はそのままにせず、花の付け根から摘み取ってあげましょう。
お供えの見た目が整うだけでなく、残りの花やつぼみに株の力が回ります。

花が終わったあと、来年に向けて

花がすべて終わっても、胡蝶蘭の株はまだ生きています。
ここからのお世話次第で、また花を咲かせることができます。

花茎は下から2〜3節を残して切る

三重県の中央農業改良普及センターは、花が残り2〜3輪になったら、花茎を下から2〜3節残して切ると、二番花を楽しめると案内しています。
節とは、花茎の途中にある小さな膨らみのことです。

ただ、二番花は一番花より小ぶりで、株の体力も使います。
葉にしわが寄っていたり、株が弱っていたりするときは、花茎を根元から切って休ませてあげてください。

植え替えは春の終わりまで待つ

化粧鉢の中の小さな鉢は、そのままでは根が詰まって窮屈です。
花が終わったら一株ずつ取り出し、春の終わりから初夏にかけて、新しい水苔で植え替えるとその後の育ちが変わります。
季節ごとの置き場所は、季節別・胡蝶蘭の置き場所と温度管理の記事で詳しくまとめています。

来年の命日にぴったり咲くとは限らない

贈答用の胡蝶蘭は、生産者さんが温室の温度を細かく調整して、届く日に合わせて咲かせています。
家庭では、秋に夜の気温が下がってくると花芽ができ、冬の終わりから春にかけて咲くのが自然な流れです。
ですから、翌年の命日にちょうど花が開くとは限りません。

それでも、ひと冬越した株が花茎を伸ばしはじめると、教室の生徒さんは皆さんうれしそうに報告してくれます。
命日からずれて咲いた花は、その方を思い出す日をもうひとつ増やしてくれるのだと、私は思っています。

まとめ

命日に供えた胡蝶蘭が早くしおれてしまうのは、多くの場合、仏壇のまわりの環境が原因です。
果物から少し離すこと、夜の冷えから守ること、毎朝のお水と水やりを分けて考えること。
この3つを心がけるだけで、花はずいぶん長くもちます。

花が終わったあとも、株を大切に育てれば、また白い花を見せてくれます。
命日とは違う季節に咲いたとしても、その花を眺める時間は、故人を静かに想う時間になるはずです。
お供えの胡蝶蘭が、ご家族のそばで少しでも長く咲いてくれますように。